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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第345号(2018.02.09)

チベットの空気で思うこと

前回の「北京の空気で思うこと」のコピーですね。
チベットに来てそろそろ一週間たちます。チベットの自然や宗教や近代化について思うことはたくさんありますが、毎日一番気にしているのは空気です。

空気が薄くなるとはいったいどういうことか、チベットに来ない限り、真剣に考えることはありません。

チベット鉄道は青海省の西寧から出発してチベット自治州のラサまで2000キロあります。途中相当の部分が標高5000メートル以上の高さにあります。西寧の海抜は2200メートルくらいですから、心臓の動きが早いと分かりますが、車窓の外に広がる雄大な自然を楽しむ余裕があります。

しかし、列車が4000メートルを超えると、頭が痛くなり始めます。寝ても起きてもつらいです。5000メートルを走っている間は吐き気がどんどん激しくなり、真夜中なのに一睡もできません。「こんな辛さを知っていたら飛行機で来たよ」と後悔し始めました。

ラサのホテルに着いた時にはもう意識が朦朧としていました。激しい頭痛、吐き気と共に肩凝りや頸凝りが出てきました。とても食事する余裕がありません。

しかし、8時半になると部屋の通気口から酸素の供給が始まりました。30分もしないうちに、私は見る見る元気を取り戻し、食欲が出てきました。2、3時間で肩凝りや頸凝りも消えてなくなりました。

ラサに着いても各地の観光名所や寺院を訪ねるには必ずと言ってよいほど5000メートルの山を越えなければなりません。超えるたびに携帯の酸素を吸うようにしました。吸わないとどうなるかは分かっているからです。3000メートルの都会に降りてきても油断して長く歩くと体が同じ酸欠現象を起こします。

体の辛さだけではありません。空気が薄いということはお湯が60度や80度で湧いてしまうのです。だからなかなか温かいものを食べられません。北京から持ってきたお菓子の袋や化粧瓶などはパンパンに膨らんでいます。平地の気圧で入れた空気がこちらの薄い空気に拡散しようとしています。

こんな話で終わるとつまらないと思う方も多いと思いますのでついでに経済の空気について考えてみたいと思います。

高速道路を降りたところに四川省から来た若い夫婦がやっているレストランがあり、そこで昼食をとりました。対応も味も良かったので目的地の林芝(インドまであと百キロあまりのところ)から戻った日にもそのレストランを利用しました。

食事中にチベット族の方が数日前に親戚が落とした財布を探しに来ました。店主が中身の質問をした後、財布をその方に託しました。「よくあるんですか?」と聞くと「携帯電話が一番多いが、財布もよくある。あるときは6万元(110万円)を拾いました。」というのです。

車で追いかけて返す場合もあるのですが、殆どの場合は戻ってくるのをじっと待つしかないそうです。一年間も充電しながら待っても一度も鳴らない携帯電話があるそうです。遠方に帰った客が諦めて破棄手続きする場合が多いそうです。

「商売は信用が一番。必ず戻ってくるんですよ。」三十代の店主の言葉は商売の空気を思い出させてくれました。信用は商売の空気です。無くしたら終わりです。

宋メールに何を書こうかと悩んでニュースを見るとビットコインや米国株の下落を目にしました。タイミングを予測することができませんが、市場下落はそう遠くないと宋メールで以前にも言いました。

理由は金融の空気です。与信は金融の空気です。ゼロ金利は酸欠した病人を助ける酸素タンクです。一時的に使ってもいいですが、いつまでも使うものではありません。私のように平地に戻るか、チベット住民のように空気の薄さに順応するか、どちらでもです。酸素タンクを背負いながら高原に居座るのは邪道です。

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