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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第318号(2017.01.27)
違っても好きな人
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1.違っても好きな人(論長論短 No.285)
2.ソフトブレーングループからのお知らせ(セミナー&最新情報)
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■1.論長論短 No.285
違っても好きな人
宋 文洲
明けましておめでとうございます。今頃こんな挨拶をするのはおかしい気がしますが、今年最初の宋メールであることに気付いてほしいからです。
昨年の終わりに号外を出して来年は事務局の都合で出せないかもしれないと申し上げましたが、おかげさまで今のところ事務局をやってくれているソフトブレーンに変化はありません。(昨年の号外:https://www.softbrain.co.jp/mailmaga/detail/post_25.html)
正直、ここ数年、宋メールも含め、そもそも世の中にメッセージを発信して何の意味があるのかとよく自問しています。テレビも新聞も以前よりずっと無難で台本通りの番組を作り、ネットでも意見が合う人同士が結束し、異なる人を攻撃する所謂「炎上」も日常茶飯事です。人は聞きたいことを聞き、認めたいことを認め、聞きたくないことを聞かない、認めたくないことを認めない、そういう主観的な動物なのです。
私も当然例外ではありません。意見が合わないとついつい「あの人は井の中の蛙」、「あの人は思い込みが激しい」、「あの人は知らないくせに喋りたがる」と考えてしまいます。せっかくビジネスから引退して平穏で幸せな日々を送っているのに、いちいち心の中で文句を言う自分が情けなくなることはよくあります。
しかし、ここ一、二年でそれを避ける良い方法を見つけました。ついつい文句を言いたくなるようなメディアを見ざる、出ざる。ついつい悪口を言いそうな人と会わざる、関わらざる。そうすると急に自分が穏やかになり、心の平和が保てるようになりました。
私がトランプ氏が大統領に当選するのではと思ったのは一年以上前に彼の講演を聞いて好きになったからです。もし嫌いだったらきっとその後の彼の講演内容を馬鹿にして「頭がおかしい」と決め込んで聞かなくなったでしょう。
好き嫌いは人間の避けられない感情である以上、素直に受け入れるしかありません。むしろ好き嫌いの理由を冷静に見つめる努力をしたほうがためになると思います。
私がトランプ氏を好きな理由は彼の中国への態度によるものではありません。彼が選挙中も今も中国を最大の敵にしていることは周知の通りです。彼は外国人や移民に対しても厳しい見方をしているのです。私の四人の子供は米国に居て彼らの先生も含めて皆がトランプ反対です。
それでもトランプ氏を嫌いにならない理由を見つめたいと思います。
「彼は嘘吐きだ」「彼は思い込みが激しい」「彼は米国の普遍的価値観を大切にしない」「彼は人種や性別の差別者だ」などなどの批判は結構当たっています。しかし、それでも半数の米国人、しかも特に昔から米国に移民してきた白人たちがなぜ彼に投票したかを考えるべきです。彼は実に本当に米国の将来を心配し、数十年後の米国の姿をはっきり想像できているのです。クリントン氏のように20世紀型のイデオロギーに生きていないのです。
20世紀では米国は民主主義を広げるために経済の果実(市場)を弟分たちに気前よく分け与えてきたのですが、いよいよ米国民自身がやっていけなくなりました。チェンジを訴えて当選したオバマは微調整したものの、価値観の面子を下して米国民の所得向上に失敗したのです。昨年5月の宋メールでも触れましたが、米国の中産階級以下は全員、所得がリーマンショックの前より減ったままです。富裕層とエリート層が増えたのに対してそのほかの階級は減ったのです。この現実を知ってもう一度トランプ氏の就任演説を読むと彼が誰の心に何を訴えているかがよく分かります。
「民以食為天」(民は豊かにしてくれる体制を支持する)。このような率直な考え方は私のみならず、多くの中国人の中にあります。民主主義や自由も大切ですが、豊かになることと自由になることは連動しています。本当に豊かになれるならば、自由は自然についてくるのです。第一、人間がまず一番必要としている自由はお金の自由なのです。
食えない普遍的価値は米国人も食わないのです。中国は明らかに米国の真のライバルです。敵にして当然です。自由貿易は聞こえがよいのですが、得して初めて意味があります。自由貿易を主張しているのは昔も今も生産力と貿易力に優れた国です。日本に開国を迫る黒船時代では、英国と米国の生産力と貿易力が世界のトップに立っていたからです。
結局、私がトランプ氏を好きな理由はトランプ氏およびトランプ氏を代表した米国人の考え方に親近感を感じたからです。これは私の限界でもあります。私は米国や日本のような民主主義をうらやましいと思いませんし、中国は米国のようになってほしいと思いません。当然、今のような中国がよいとも思いませんが、それぞれの国が自分達の手探りで前進すればよいと思います。生き詰まったらその体制が自然に崩壊し、また別の模索が始まるのです。中国人はそのことを「国破れて山河在り」と表現しているのです。
中国語の「国破山河在」の意味は「政治体制が崩壊しても大切なものは無くなっていない」です。(大切なものは人間、文化、資源などです)。人民は「国体」に拘るはずもありません。「国体」に拘るのは体制側であり、体制に洗脳された人々です。トランプ氏とその支持者達が「米国の価値観」に対して「I don't care」と言えるのはむしろ米国の革新力の象徴です。これは鄧小平時代の社会主義論争と似ています。
当時、鄧小平の社会改革が社会主義の価値観を壊しているとの批判に対して鄧小平が「白い猫でも黒い猫でもネズミを捕まえる猫はよい猫だ」と言ったり「現実は真理を検証する唯一の基準だ」と言ったりして押し返しました。私の運命を変えてくれたのは鄧小平でした。「人民を搾取した」実業家系のせいで私達家族は差別を受けていたのですが、いきなり自分の能力と努力で富と尊厳を勝ち取れるようになったのです。こうやって読者の皆さんと出会えたのも鄧小平の改革のおかげです。
「別れても好きな人」ではありませんが、「喧嘩しても好きな人」というのが存在すると思います。これからの世界をみれば、米中の競合は避けられません。どうせ喧嘩するならば、トランプ氏のような率直で前向きな分かりやすい人がよいと私は思います。トランプ氏が成功するかどうかはわかりません。将来の現実が検証をするでしょう。しかし、失敗を恐れて変化をしないことこそ最も恐ろしいことです。
宋メールを読んでくださる皆さんもきっとどこかで私と同じ持ち味や性格である可能性が高いと思います。嫌いならば読んでいないと思います。お互いが「違っても好きな人」という「危険性」が高いと思います。
ということで皆様、今年もよろしくお願いいたします。
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■2.ソフトブレーングループからのお知らせ
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(終わり)