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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第326号(2017.05.12)
東芝の本当の危機
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2. ソフトブレーングループからのお知らせ(セミナー&最新情報)
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■1. 論長論短 No.294
東芝の本当の危機
宋 文洲
東芝の惨状は私が説明するまでもありません。しかし、不思議なニュースに皆さんは疑問を感じませんか。決算発表を何度延期しても監査法人の承認が得られず、それでも上場維持できることも不思議ですが、「命の綱」とされた半導体事業を高値で買うアジア企業をわざと避け、既に技術を持つ日米企業への販売に拘っているのです。
その理由は「高度な技術の中国への流出を防ぐため」だと説明されていますが、「そんな高い技術を持っているならば、なぜこんな惨状になるのか」と素直に思いませんか?
私が日本に来た1985年には中国は文化大革命の混乱を収めた直後で、中国の経済と技術は悲惨な状態でした。それでも日本での研究生活を通じてすぐ分かりました。「中国が経済と技術を重視する体制をとれば、先進国との差はすぐ縮められる」と。
理由は日本の上級生や同級生の研究能力です。優秀な人も居ますが、平均的な研究力、特に数学の理論力と外国文献の解読力が著しく低かったのです。
この考察は私の創業につながります。米国で開発された大型計算機で運用する航空機や車の構造解析ソフトを、私はパソコンで土木構造物に簡単に使えるようにゼロから開発しました。この分野において私に勝てる日本人はいないと思いました。
日本になかった便利なソフトである上、従来ソフトの2割の値段で売ったため、東京大学、建設省の研究所、道路公団を含む日本の土木業界殆どに売れたのです。興味のある方は調べていただければすぐ分かりますが、20数年前に私が発売した2D-σや3D-σなどの土木構造解析ソフトはいまだに日本の土木業界で使われています。
「数学と物理の基礎が優れた大学院出身の研究者に5年間の時間と所要の資金を与えればどんな先端技術でもなんとかなる」。これが私の経験から言えることです。
私の別荘の倉庫には今も当時の数式誘導の手書き原稿の一部を保存しています。英語の参考文献を読み漁ってコンピューターのプログラムに使えるように、独自の数式誘導と分解をしなければ、プログラムが作れなかったからです。
一番苦しかったのは自分の数式誘導の結果が部分的に文献と違うことです。わずか一文字、一つの符号が違っても、計算の結果には天と地の差があり、どちらが正しいかは独自の方法で検証しなければなりません。
結局自分がミスした場合が多かったのですが、世界的権威の論文にも何回もミスが見つかりました。作者が書く際のミスなのか、印刷する際のミスなのかは分かりませんが、論文として読む分においては気付かないほどの小さい問題でも製品の開発となればとんでもない間違いをもたらします。
だから高度な技術を使う製品においてはコピーやパクリはあり得ないのです。たとえサンプルがあってもそれを理論基礎から製品の設計、製造とメンテナンスの細部まで理解し、細かいミスも見つけ出す力がなければ、市場に出回る製品になり得ないのです。
東芝の話に戻りますが、かつて東芝はNECや富士通などと同様に多くの先端技術を持っていました。しかし、それは当時の先端であり、米国に教えてもらったものが多く、東芝の技術者でなければ作れないものは皆無です。そもそも初期の東芝はGEの製品を真似して電気掃除機や冷蔵庫を作っていました。外形までそっくりでした。原発事故の原因の一つは東芝製と言いながら、中身はGEに任せたため当時の設計図も残っていないのです。これは東芝が市場価格を遥かに超えた値段で米国の原発会社を買った遠因でもあるでしょう。
東芝の半導体技術はたしかに今のところはまだ中国メーカーをリードしていますが、十分な市場があって儲かると分かれば、中国メーカーは買うか自分で開発するか、方法が違ってもいずれその技術を手にします。東芝は既に同様の技術を持つ米国や日本の企業に売っても当然高く売れません。中国メーカーがそれを高く買うのは時間を買いたいからであって、開発不可能だからではないのです。
残念ながら日本の政治家、官僚と企業家は文系出身が圧倒的に多いのです。研究開発をしたこともない人たちに限って技術を過剰評価するのです。それが技術を自慢しながら経営危機に追い込まれる日本の大手企業の遠因でもあります。危機に瀕しても古い思考回路から出られないことが東芝の本当の危機です。
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