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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第315号(2016.11.25)
TPPは神風にならぬ
1.TPPは神風にならぬ(論長論短 No.282)
2.中国発のイノベーションが牽引するユニクロの未来
(Yo-ren Limited CEO 金田修・連載 第6回)
3.宋TV出演のお知らせ
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■1.論長論短 No.282
TPPは神風にならぬ
宋 文洲
十数年前から、私は日本はもっと早く他国との自由貿易協定FTAを締結すべきだと主張してきました。日本経済の活性化と開放性を高める効果があるからです。
保守勢力の反対でなかなか進まない中、8年前にTPPの議論が始まりました。
これにも私は賛成しました。どんな形でもいいから日本経済のオープン性を高めるべきだと思ったからです。
しかし、ここ数年においては、私はTPPに反対するようになりました。
理由はTPPの議論が本来の経済活性化やオープン性から変質して政治色を強めたからです。
安倍政権がTPPは「中国に主導権を渡さない」、「中国をけん制する」ための道具だと強調しているからです。中国人として不快だからではなく、一経営者としてそれは邪道だと思ったからです。
ビジネスマンの皆さんなら分かると思いますが、企業同士の体制や理念が違っても、競合関係があってもビジネスはちゃんと行うものです。好きな仲間だけと特別なルールで交易し、嫌な会社や経営者を交易から排除するような発想はビジネスマンの発想ではないのです。シルクロードが偉大な交易ルートになったのは体制と文化の相違を問わず、相互の有無や長所短所を補うことに専念したからです。
貿易の素晴らしさはそこにあるのです。いや、貿易とはそういうものなのです。
TPPのルールに国家の体制や法律を管理するような条項が入っています。
「中国にルールを作らせない」、「中国にリードさせない」などの政治スローガンも叫ばれました。中国は他国が勝手に作ったルールに興味がないように、他国にルールを強制することにも興味はないはずです。中国は直接当事者のメリットに集中するのみです。これは我々ビジネスマンが顧客の個別対応に力を注ぐことと同じシンプルな原理です。
どんな市場でも、交易はあくまでも一対一です。市場に参加すれば物が自然に売れる発想は顧客無視の甘い発想です。TPPであっても、本来、交易はあくまでも2国間の物の有無と長短を交換するのみです。強制するようなことがあれば各国は自然にあの手この手を使って抵抗するはずです。いくら企業が国家を訴えることが可能といっても、そのための時間と労力は大変なもので執行性が低いのです。
このような非効率性を知ってイギリスがEUを離脱し、米国はTPPを離脱するのです。
交易の原則論で言えば政治色が強くなればなるほどその交易の生命力と生存力が弱くなるのです。これは資本主義が社会主義に勝った理由でもあるのに、資本主義のリーダーを自認する米国政治家の一部が政治色の強い貿易協定を進めるとは驚きでした。
また、社会主義と自称する中国が政治色を持たず、すべての国とオープンに交易するのは皮肉です。AIIBが示したように、世界のあらゆる国にドアを開放し、反対してきた米国と日本を未だに誘っているのです。中国に魅力があるからではなく、中国が主張しているAIIBの開放性と気安さが参加国にとって快適だからです。
トランプが大統領として相応しいのは本質を見抜く力があるからです。交易はあくまでも米国のメリットになるかどうかを優先するのです。政治色の強いTPPは米国内の不満と格差を広げるのみです。中国同様、米国もあくまでも個別交渉のFTAを通じて米国のニーズと利益を獲得するのです。
本来、日本も自国の国益を優先して異なる国と異なるFTAを急ぐべきでしたが、安倍政権になると経済問題の政治化が進み、二国間のFTA交渉をストップしてしまいました。その代わりにTPPを「成長戦略の要」と称して神風のように全ての希望を託したのです。
上述のように、TPPは発効しても神風にはなりません。また、神風に国民の運命を託してはいけないことは、日本の政治家達は敗戦を通じて学んだはずです。
半年前から、トランプが代表している米国の変化は「安倍政権に影響を及ばさない訳がない」と警告しましたが、残念ながら私のような「反日分子」の進言は安倍総理の耳に届く訳がありません。
(終わり)
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■2.Yo-ren Limited CEO 金田修・連載 第6回
中国発のイノベーションが牽引するユニクロの未来
金田 修
これまでスマホアプリが中国をどう変えているか、という話とマクロの中国経済の話に集中していましたが、今回からは中国の最先端のデジタル消費者に支持されている日本ブランドのお話も幾つか取り上げていきたいと思います。
中国に対する世界からの直接投資は過去3年間増加し続けており、昨年は5.6%増、とりわけ製造業は減少傾向にある一方で、非製造業が増加分の全てを占めており、総額で全体の3分の2以上になります。日本からの直接投資は、日本側の統計によれば6割以上が製造業ですから、世界は中国を消費基地と見立てて投資を加速している一方で、日本は遅れを取っているといえます。
とはいえ、個別には大活躍している企業も多くあり、そのほとんどはデジタルの波に上手く乗って、中国市場の規模の壁を乗り越えています。皆さまご存知のユニクロがこの観点でのリーダーです。
中国のユニクロは、アリババが運営するBtoCプラットフォームであるTmall上での圧倒的なプレゼンスが有名です。今年もアリババ最大のセールス日である11月11日のウィメンズアパレルブランドにおける売上1位を獲得しました。
ただし今年のユニクロは今年に拘る様子を見せませんでした。なぜなら、もはや11月11日はアリババにとどまらずオフラインの小売でも重要なセールスイベントとなっており、アリババは次への進化として、顧客体験の進化、エンターテイメント化、に既に舵を切ったことを示す日と2016年11月11日を捉えており、アリババの初期からのパートナーとして、ユニクロもその流れの先頭にいたからです。
実際のところ、ユニクロの商品は夜中0時に始まる大セールスの開始当初から爆発的に売れており、売り上げが全カテゴリーの全ブランド中最速、史上最速の開始3分弱で1億元に達しました。ただ、去年までは「タップリと在庫を積んでおけ」というTmall側の指示もあり、11月11日当日は特売品を除いて夜まで在庫がある状態が普通だったのにもかかわらず、今年の場合はうってかわって朝の10時前には全ての商品が売り切れていたのです。
11日の昼間にはWechatのモーメンツにユニクロのページに在庫がない、と嘆く写真が続々とアップされていました。私も弊社社員も、ユニクロだけでなく他の人気ブランドでも今回は夜中に迷って買い物かごに入れたり、お気に入りに入れて購入を先送りしていた商品は、ことごとく朝には売り切れていました。
ユニクロがこの日に注目を浴びたのは、したがって売上額自体ではなく、1億元到達のスピードはもちろんのことその配送体制です。なんと、ECの商品が次々と購入者の最寄りの店舗から配送されていき、非常に迅速に、あの赤字の目立つユニクロボックスに梱包されて配送されていったのです。書くと簡単に聞こえますが、ECであっても店舗付近に圧倒的にユーザーが多いという事実を考えると、これは難易度は高いが、非常に利益と顧客サービスにインパクトのある取り組みです。
店舗在庫とEC用の倉庫在庫を連携させ、即時に判断をしていくことで、物流コストを削減し、お客様への到達時間を最小限にする。これは現在の中国以外では中々簡単に出来ない仕組みだと思います。実際ユニクロ日本は24時間以内配送を目指して有明に倉庫機能を集約したと聞きますが、ユニクロ中国は、今回のこの事例を礎に最寄店舗から配達することでEC注文から2時間以内の配送を目指しています。
ユニクロ中国のECの責任者はアリババ出身で、彼に聞いたところ、アリババの最先端の新規プロジェクトから声がかかることが多く、ユニクロ経営陣からも大きく権限移譲されているので、自分で望めば何でも一緒に取り組める。ユニクロが新しいチャレンジをする上で最適な会社だからしばらくここにいたいとのことでした。
ちなみに今年の11月11日は売上は昨年並だったが、利益率や配送時間など重視していたKPIは大幅に改善が見られた、と満足そうに語っていました。
日本では1日に1年分近く一気に売り上げて配送・返品・クレーム処理をどうするんだ、という批判や懸念も多く耳にした気がしますが、そのストレスに耐える仕組みを作った結果、たったの4、5年で、中国ECの物流システムは日本を追い越し、世界をリードする存在になりました。
日本企業にとっての意味合いは、中国の消費市場は、今の巨大な需要を取り込むためだけではなく、世界に先駆けてデジタル時代にリーダーになるための試験場でもあり、全社のR&Dの対象だと意識できるかが重要である点かと思います。そして変化のスピードもとてつもなく早いので、2、3年前の話もアテにしてはいけないということですね。
近くで見ているとユニクロ中国のデジタルの取り組みも全てがあたっているわけではありません。それでも挑戦をし続けているからこそ、優秀な人材が興奮して頑張り、日本発のイノベーションだけでなく、中国発のイノベーションも組み合わせたグローバルブランドになりつつあるのだと思います。
(つづく)
金田さんが創業したYo-ren LimitedのURLはこちら↓
http://yo-ren.com/ja/
(終わり)
■3.宋TV出演のお知らせ
テレビ朝日「朝まで生テレビ!」
2016年11月25日(金)25:25~(26日午前1:25~)
是非ご覧ください!
(終わり)
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