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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第279号(2015.07.10)
中国株暴落の深刻さ
1.中国株暴落の深刻さ(論長論短 No.246)
2.南極から地球環境変動を知る
(福西浩 東北大学名誉教授 連載「南極~フロンティアへの挑戦」 第4回)
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■1.論長論短 No.246
中国株暴落の深刻さ
宋 文洲
上海総合指数は約3週間で30%以上暴落しました。何人もの経営者の友人が電話をかけてきて私に意見を求めましたが、私は彼らに4カ月前に書いた文章を送りました。まずその文章の一部を引用します。
「2014年半ばから急騰してきた中国の株価指数『上海総合指数』の動きが気になって仕方ない。いつ株を売り買いしようか迷っているわけではないよ。この半年間の株価の上がり方が不自然過ぎて、気持ち悪いからだ。
そんな折、人民日報に『中国の株価はまだ上がりそう』という趣旨の記事が増えてきた。それまでは半信半疑だったが、これらの記事を見て確信したね。中国政府が意図的に株価を上げようとしているんだ、と。今後半年程度の上海総合指数の動きによって、中国経済の先行きの明暗がある程度みえてくる。中国で事業をしている日本企業の人たちも注目しておいた方がいい。」
(「上海株は危険な官製相場 このまま一服してほしい」日経ビジネス 2015/03/16号)
一年前までは、中国株は確かに安かったのです。上海指数はずっと2000点付近を徘徊し中国銀行や中国石油などの優良株のPERは10倍にも達しておらず、配当も5%前後ありました。
中国経済が長い間成長してきたのは経済を政治から分離し、市場の規律を尊重してきたからです。株式市場は資金をもって経済の未来に投票する場所でした。昨年の株式市場の低迷脱出は世界経済や習近平の腐敗撲滅に希望を感じたからであって、決して政府が上げたものではありませんでした。
ところが、誰の提案かは知りませんが、今年に入ってから明らかに中国政府が回復傾向にある株式市場を利用しようとし始めました。金融当局の政策も発信も目立って株式市場を誘導し始めました。あの経済音痴の人民日報までも。証券会社の店頭にいくと、過去数年間、閑古鳥が鳴いていた店頭でも、口座を開く人でいっぱいでした。バブル特徴のすべてが揃いました。
中国株は過去にも暴落を経験してきましたが、今回の暴落にはこれまでになかった深刻さがあります。
1. 高度成長が終わり、中国経済は構造改革に直面している
2. 初のレバレッジ相場が崩壊し、金融当局が融資残高を把握していない
3. 政府が相場の上昇と下落に明確に関与した
中国のテレビに出演した際、多くの中国の経済や金融の専門家と知り合いました。我々内部の交流サイトでは、ここ数日激しい口喧嘩が起きています。政府が金融市場を管理すべきと主張する「管理派」と、政府の関与を最低限に留めるべきと主張する「原理派」との喧嘩です。今週月曜日には政府が相場の下落を止めるべきだと勢いよく主張していた「管理派」は段々弱くなりました。政府の努力が無駄であることを相場が証明したからです。
たぶん、習近平や李克強の周辺も同じことが起きています。指導部が謙虚に教訓から学べば遅すぎることはありません。短期的に苦しいかも知れませんが、市場や経済原理の洗礼を受けてこそ中国経済に将来があるのです。無理やり成長の数字を維持し、権力を経済原理に押し付けた場合、中国の経済や社会が大変な局面を迎えます。
(終わり)
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■2.東北大学 福西浩名誉教授 連載「南極~フロンティアへの挑戦」 第4回
南極から地球環境変動を知る
福西 浩
フロンガスから生じる塩素酸化物がオゾン層の破壊を引き起こす可能性は、1974年にカリフォルニア大学のローランド教授とモリーナ博士が指摘していました。両氏はこの業績により1995年度のノーベル化学賞を受賞しました。しかし実際にオゾン層の破壊が発見されたのは指摘から10年後の1984年で、しかもフロンガスを使用する先進国の上空ではなく、フロンガスの発生源から最も遠い南極上空でした。
オゾンホールの発見には日本やイギリスの南極観測隊が大きな貢献をしましたが、発見が遅れたのは、理論的に予測された減少が1%程度だったのに対して観測された減少は40%とあまりにも大きく、観測データの信頼性を疑い、その検証に時間がかかってしまったからです。
ではなぜ南極上空にオゾンホールが出現したのでしょうか。それはオゾンの破壊には塩素酸化物だけでなく、成層圏が極端に低温になり、微粒子の雲が発生するという条件が必要だったからです。
この雲は極成層圏雲と呼ばれていますが、微粒子表面での化学反応によって塩素酸化物によるオゾン分解速度が急激に速まります。南極の極低温環境が南極をオゾン層に対する敏感なセンサーにしたのです。もし南極での観測がなければ、人類がオゾン層の破壊を引き起こしていることに気づくことはなかったでしょう。
地球温暖化に関しても南極は敏感なセンサーになっています。昭和基地では大気中の二酸化炭素濃度の高精度モニタリングを1984年から継続的に行なっており、この30年間で342ppmvから393ppmvまで増加しました。南極でのモニタリングの第一の利点は、南極大陸が海に囲まれた孤立した大陸であるために、人間活動による大気汚染などの影響がほとんどないことです。
第二の利点は、南極大陸の陸上植物は地衣類とコケが主なものなので陸上植物による二酸化炭素吸収の影響を受けないことです。そのために地球全体の二酸化炭素濃度増加量を正確に推定するためのバックグランドデータとして世界中の研究者が利用しています。
地球温暖化の影響で北極海の海氷域の面積が最近大幅に縮小し、北極海航路の活用が話題になっていますが、南極では逆に海氷域の面積が年々増加しています。
その原因はまだ解明されていませんが、北極側は北極海が大部分を占めるのに対して、南極側は平均標高が2010mもある氷の大陸が大部分を占めるという異なる環境にあります。
そこで北極側では海水温が少し上昇するだけで海氷の融解が進みますが、南極側では海水温の上昇によって海面からの蒸発量が増えると、南極大陸が冷源となって降雪量が増え、海氷域が拡大する可能性が考えられます。
2011年に砕氷能力を増した2代目「しらせ」が就航しましたが、この頃より昭和基地があるリュツォ・ホルム湾の海氷の厚さが増し、第53次南極観測隊(2011/12年)と第54次南極観測隊(2012/13年)は昭和基地に接岸することができず、しらせ搭載大型ヘリコプターによる空輸によって越冬観測にどうしても必要な物資だけを搬入しました。
このように地球温暖化の影響は南極域と北極域で全く異なることが分かってきましたが、そうした違いの究明が地球環境変動の将来予測のためにこれからますます重要になっていくでしょう。
(つづく)
執筆者:福西 浩(東北大学名誉教授)
東京都出身、東京大学理学部卒、同博士課程修了、理学博士。米国ベル研究所研究員、国立極地研究所助教授を経て、東北大学教授として宇宙空間物理学分野の発展に努める。南極観測隊に4度参加し、夏隊長や越冬隊長を務める。
2007年から4年間、日本学術振興会北京センター長として日中学術交流の発展に尽す。2011年から3年間、東北大学総長特命教授として教養教育の改革を推進する。専門は宇宙空間物理学で、主に地球や惑星のオーロラ現象を研究している。現在は、公益財団法人日本極地研究振興会で南極・北極観測の支援と研究成果の普及・教育活動を推進している。
公益財団法人日本極地研究振興会ホームページ:http://kyokuchi.or.jp/
(終わり)
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