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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第267号(2015.01.23)

身近な女性にお茶を出そう


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1.身近な女性にお茶を出そう(論長論短 No.234)
2.女性が救う社会
  (社会学者 古市憲寿さん 連載 「男はつらいよ」 第5回)


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■1.論長論短 No.234

身近な女性にお茶を出そう
宋 文洲

先週の日曜日、別荘に行くと近所に住む大沢さんの奥さんの訃報を聞きました。
金曜日の昼間にはまだ元気に近所を散歩していましたが、夜のお風呂の後に急に気分が悪くなって救急センターに行く途中で意識を失いました。脳溢血でした。

家族で大沢さんの家に向かうと大沢さんは庭の入口に立っていました。私は「大沢さん・・・大丈夫ですか?」と言って彼とハグしました。なぜか「ご愁傷さまです。」では悲しい気持ちを伝えられないと思いました。

彼女はクリスチャンなので遺影の前で手を合わせて心の中でお祈りの言葉を差し上げました。その後、大沢さんと話しました。

「あまりにも突然ですから、さよならも言えず、ありがとうも言えず・・・。」
と大沢さんが切り出すと既に目に涙が溜まっていました。
「通帳印鑑の場所から花の面倒まで、何もわかりません。」
「家内が亡くなって自分の愚かさに気付きました。家事、食事、そして私の生活のすべてをやってくれました。如何に有難いかは彼女が亡くなってから気付きました。」
「一日数回お茶を出してくれました。考えてみれば、私は彼女にお茶を出したことがありませんでした。一度だけでもいいから彼女にお茶を出せば・・・。」

大沢さんは涙を拭きながら声を詰まらせました。
私も涙を我慢できず袖で拭きました。

「大沢さん、あまりご自分を責めないでください。日本の男性はそういう人が多いのです。だからといって感謝の気持ちがない訳ではありません。奥さんへの感謝はきっとこれまでの日常生活の中で奥さんに伝わったと思いますよ。」

しかし、大沢さんが「私は愚かな男です。早く気付けばよかった。」とますます自分を責めるばかりです。

あれこれ理由を探して大沢さんを慰めて「近所ですから、お困り事があればすぐ言ってくださいね。」と伝えた後、重い気持ちで大沢邸を後にしました。

実は心中、大沢さんの気持ちは痛いほど分かります。日本の男性、特に年配の男性は女性、特に奥さんなどの身近な女性にとても甘えているのです。

日本に来たばかりの時に付き合った女の子から聞いたのですが、彼女のご両親は言葉を使わなくても「以心伝心」で通じると言うのです。「たとえば?」と聞くと「お父さんがお茶を飲みたい時、言わなくてもお母さんはすぐ分かるもの。」と彼女が例を挙げてくれました。

「じゃ、お母さんがお茶を飲みたい時にお父さんも分かりますか?」と私が聞くと、「分からないと思います。」と彼女は答えました。
「それは以心伝心と言いませんよ。お互いが通じ合うのが以心伝心ですから。」と言いましたら、彼女は困惑した表情で「だって男性は女性にお茶を出しませんよ。」と言いました。

もう25年前のことですのでその彼女は今もう40代後半です。「男性は女性にお茶を出しません。」と信じる彼女は今頃毎日、一方的に旦那さんにお茶を出しているでしょうか。「いや、そんなことはないだろう。あれから社会も変わったし。」と祈るばかりです。

世の中では「女性が輝く社会」とか、「女性が活躍する職場」とかの高尚なスローガンが流行っていますが、せめて男が女性にお茶を出すくらいのことはやってほしいのです。それも自分の奥さんや同僚などの身近な女性に。

(終わり)

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■2.社会学者 古市憲寿さん 連載 「男はつらいよ」 第5回

女性が救う社会
古市憲寿

社会は女性化しているのに、制度がそれに追いついていない。現代に適応しているという意味で「優秀」な女性を活かす環境が十分に整っていないのだ。

たとえば今でも日本では女性が出産や育児の期間、休職することが珍しくない。
年齢別の労働力曲線が30歳代で凹むことから「M字型曲線」と呼ばれるが、この「M字」が残るのは日本と韓国くらいのものである。ヨーロッパでは1970年代に労働力不足が深刻になってから、出産を挟んでも女性が働き続けるのは当たり前のことになった。

それが日本では今でも「仕事を続けるか、子どもを産むか」の二者択一を迫られる女性が少なくない。特に都市部では待機児童問題が深刻で、近親者の助けがなければ子どもを育てながら仕事なんて出来ない。

この状況は、あらゆる意味で不幸だ。働く女性自身が大変なのはもちろんだが、国家存亡の危機と言っても過言ではない。女性が子どもを産みにくい社会では少子化が進む。少子化が進むと、現役人口に対する高齢人口の割合はますます増えるから、世代間格差は深刻になる。平時にこれほど急激に人口が減っていく社会は歴史上ほとんど例がない。

逆にいえば、この状況を変えることが出来るならば、社会には希望が生まれる。
デンマークの社会学者エスピン・アンデルセンは、女性の役割の変化こそが、社会に革命をもたらすと言う。

ロジックはこうだ。まず女性が働きやすく、子どもを産みやすい環境を整えれば出生率が上がる。育児休暇や保育施設の拡充などがこれに当たる。
出生率が上がれば世代間格差のバランスも改善する。

今の日本は納税者が4590万人しかないが、女性が育児期間中も働けば、その分税収が増える。女性がキャリアを中断しないで働いてくれれば、その分生涯所得も世帯所得も上昇する。課税基盤が安定する。

さらに、たくさんの子どもを持つ共働き世帯が増えれば、新規産業と雇用が創出される。保育園やベビーシッターはもちろん、託児サービス付きのレストラン、遊園地など「子ども」向けのサービスが多く生まれて、市場も嬉しい。

要するに、いいことばっかりなのだ。「働く女性が増えると日本の伝統的な家族が崩れる」なんて妄言を吐く人もいるが、このままでは伝統的な家族どころか日本自体が崩壊してしまう。保守派の人ほど少子化を真剣に考えるべきだ。

まあ今まで散々、女性に育児や家事を押しつけてきて、経済がやばくなると今度は「女性が社会を変える」なんて言うのは、ちょっと都合良すぎる気もするけど。

(つづく)

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