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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第325号(2017.04.28)
北朝鮮の行方
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■1. 論長論短 No.293
北朝鮮の行方
宋 文洲
鴨緑江は中国と北朝鮮の国境の川ですが、私は鴨緑江の中国側の岸に5歳まで住んでいました。朝鮮側の家や人が見えますし、鶏や犬の鳴き声も聞こえます。冬には川が凍るため、両国の住民は一緒に鴨緑江の氷の上でスケートを楽しんだり、氷に穴を開けて釣りをしたりしていました。
野生のサクランボや桃や葡萄などは美味しかったですし、川の魚やエビも美味しかったです。そんな中、我が家が飼っていた豚が夜中に狼に食べられた時のことは一生忘れません。犬が吠え、父が兄を連れて犬と一緒にその狼を追い払ったのですが、私は布団の中に隠れて騒ぎを聞いているだけで恐ろしかったです。
中国側に住む住民のうち4割近くは朝鮮族です。私の印象では、朝鮮族の女性は明るくて働き者です。朝鮮族のお盆祭りに初めて招待された時、畳に上がり、茶碗蒸をごちそうになりました。お盆祭りというのはお盆をたたきながら輪になって踊るものでした。
川岸の一面に咲く黄色の花畑で朝鮮族の女の子と隠れんぼした時の思い出、そして彼女のお父さんの漁船に一緒に乗った時の思い出は今も鮮明に脳に浮かびます。
たぶん世界中の人々にとって北朝鮮という固有名詞が出てくると、金一家三代の世襲専制や洗脳された軍隊と住民と処刑、暗殺などのイメージが浮かびますが、私には私達と少し文化が違うだけの優しい住民たちの印象を消し去ることができません。
1969年のある日、そんな自然に溢れて美しい我が家から我々家族が追い出されます。理由は中ソ関係が悪化し、ソ連寄りの北朝鮮に警戒する必要があったからです。それまでに見たこともない軍隊が国境にやってきて対岸を監視するようになりました。
山東省の田舎に戻る前、汽車に犬を乗せてはいけないとの理由で家族で泣きながら犬を近所の方に預けました。しかし、犬は見捨てられたと気付き、無人の我が家に戻って飲食を拒否して亡くなりました。あれ以来、我が家はもう犬を飼うことはありませんでした。結婚して自分の家族を持った私も犬を飼うことはありませんでした。
生まれ故郷の山東省に戻って少し大きくなった時、私は家に遊びに来る、朝鮮戦争に参戦した村のおじさんの話に興味を持ちました。あの鴨緑江を渡った時の寒さや食料供給が足りない時の辛さ、米軍空爆の激しさなどをよく聞かされました。「全身に墨を塗ったような米兵」(黒人兵)を俘虜にとったこともあるというのです。私に平和で美しい思い出をくれたあの国境ですが、その当時からたった10数年前に戦争(1950-1953)があり、はるばる米国のケンタッキー州や中国の山東省から参戦する人がいたとは、想像もつきませんでした。
大人になり冷戦が終わった頃から、北朝鮮は完全に大国の都合でできた国で、大国の都合に翻弄された国だと思うようになりました。金日成は中国の東北で抗日ゲリラに参加し、ソ連軍の権威を借りて北朝鮮の指導者の座に着きました。その後、ソ連の支持を得て韓国に侵攻したのですが、米韓の反撃で鴨緑江まで追い詰められました。
国境に近付く米軍を嫌って、中国が派兵して米軍をソウル以南に追い返しましたが、最後に38度線で膠着して停戦しました。この時、私が生まれた村のおじさんは死なずに故郷に復員したことになります。
1969年、中国はソ連と決裂し、国境で戦争状態になりました。北朝鮮はソ連寄りの姿勢を取ったため、中国は北朝鮮が背後から攻めてくるのを心配して再び国境に軍隊を派遣しました。この時、私達家族は退去を求められ、山東省の田舎に追い返されました。
北朝鮮の歴史は大国によって翻弄された歴史であると同時に、大国間の不和と矛盾をうまく利用し、国際政治の狭間で生き延びた歴史です。よく考えてみれば我々民衆も大国の都合で翻弄されていました。
北朝鮮の現状を見て腹が立ってすぐにでも何とかしたいと思う気持ちもわかりますが、北朝鮮ができたのは日本を含む大国の都合でもあることは忘れてはいけません。また、北朝鮮の問題を解決する際、北朝鮮とその周辺の地域に昔の我が家と同様の住民がたくさんいることを忘れてはいけません。
100年は歴史の中では一瞬です。北朝鮮の体制がどうなっても、北朝鮮とその周辺地域の住民の暮らしは続きます。戦争はすぐ終わりますが、住民の暮らしは永遠に続きます。戦後処理を考える冷静さと余裕がないならば、開戦は自殺です。
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