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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第334号(2017.08.25)
足を使って自分を変える
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■1. 論長論短 No.302
私が日本に来た時、中国にいる恋人と別れました。それまでに恋愛と別れの経験がなかったせいもあって留学の最初の1年間は大変つらかったです。
今、息子が同じ経験をしています。昨年から米国に行ったのですが、彼女との別れに苦しんでいました。息子が私と同じつらい経験をしたのは遺伝ではなく同じように遠くへ行ってしまったからです。
心理学者の統計によれば恋愛の成否には、両方の物理的な距離が決定的です。数千キロ離れたままの恋愛の成功率は極めて低いようです。つまり、恋愛の成功率は男女間の距離と反比例するのです。距離が近いほど成功率が高く距離が遠いほど成功率が低いというわけです。
人間は思うほど自分で自分の精神を支配していないのです。人間の精神を一番支配しているのは環境なのです。
以前イラン人の友人と宗教について議論したことがあります。「なぜイスラムを信じるのか?」と聞くと彼の答えは「神の意思だ。」でした。「もし私のように文化大革命の中国に生まれたらイスラムを知らないだろう。」と言うと「私はきっと神を探しに行くだろう。」と答えました。
彼の信仰を尊重するためにそれ以上の反論は止めましたが、私は宗教だけではなく、文化、習慣と思考パターンの殆どは人間が生きている環境に作用されていると思うのです。本当に個人独自に属するものはわずかではないかと思うのです。
ITバブルの時、大金を手にした知人の経営者が私の目の前で「お金の力はすごいね。買えないものはない。」と言いました。「俺も清貧などの道徳論が嫌いだが、俺が生きた中国の文革時代では金持ちが虐められ、お金の価値が皆無に近かった。」と伝えると「俺は日本人だから関係ない。」と言って逃げました。
この知人ともそれ以上の論争を止めました。実際にその環境に置かれた経験がないとなかなか分かってもらえないと思ったからです。「勝つまで欲しがらない」という「神風特攻隊」の環境を経験した日本人はたぶん私と同じことを言うでしょう。
話が飛びましたが、我々が日々考えていることの殆どは環境の産物であることを理解すれば、自分や会社を改革する際にもう少し効率が良くなると思うのです。
同じ人間、同じ環境にずっと身を置くと間違いなく異なる発想を持たなくなるのです。異なる世界に生きている人間のサークル、できれば異なる言語や異なる文化と宗教を持つ人間のサークルに入ってみれば良いです。全く異なる世界に少数派として身を置くとどれほど自分の「信念」が薄くて軽く見えるかを実感します。
「自分の信念を捨てなさい」という意味ではありません。全く異なる世界が目の前で、普通に合理的に、そして場合によって美しく展開されると自分の中に自然と変化が宿るのです。改革や革命のリーダーは異なる経験をしてきた変人異人が多いのはこのためです。
「孟母三遷」を知っている方も多いと思いますが、昔から人々は偉い先生や素晴らしい理念よりも環境が人間に与える力を知っていました。「かわいい子には旅をさせよ」諺の本質も同じだと思います。
ノウハウの本を読み、著名人の講演を聞き、社内研修を重ねるような「意識改革」は精神で精神を変える努力で、努力した気分になるのでしょうが、効果が薄いのです。気分が優れないなら、出かけてみる。やる気がないなら会社を変えてみる。人生がうまく行かないならば住む地域を変えてみる。
本当に自分を変えてみたいならば頭ではなく、足を使うのです。
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