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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第341号(2017.12.08)

戦略とはどう勝つかではない

中国のシルクロード経済圏構想(一帯一路)に関し、日本政府が民間経済協力のガイドラインを策定しました。これについて11月に安倍首相はベトナムで習近平国家主席と会談する際、「第三国でも日中のビジネスを展開していくことが、両国のみならず対象国の発展にも有益」と話したそうです。

まったくその通りですが、この転向の速さにびっくりです。今年5月26日の宋メール「胡坐」で書いたシルクロード交易の原則(お互いが得し豊かになる)を、安倍首相の口から言われるとは思いませんでした。
(「胡坐」URL: https://www.softbrain.co.jp/mailmaga/detail/post_34.html

日本経済が元気な時代に「中国ビジネス」という言葉がありました。これの本質は中国とビジネスをすることであり、中国国内でビジネスするとは限りません。中国が得し、日本が得し、第三国も得するようなビジネスは世界中にあります。中国が世界中でビジネスするならば、中国ビジネスも世界中に広がるのです。

昔から宋メールを読んでくださっている方々ならご存知だと思いますが、私はずっとFTAやTPPを含むあらゆる自由貿易の仕組みについて日本(もちろん中国も)積極的に参加すべきだと言ってきました。得しないならば交渉を通じて得する部分を引き出し、マイナス部分と足してみて合計がプラスであれば、果敢に参加すべきです。

しかし、TPPが途中から変質していきました。「中国包囲のため」だと保守政治家たちやマスコミが盛んに言うようになりました。これではうまく行くはずがないと思いました。中国包囲を嫌うからではなく(まあ、好きな訳もないが)、交易の原則に反するからです。日本の右翼政治家たちがそう願っても、実際の交易はあくまでも一対一のディールの積み上げでお互いが得するかどうかの原則だけが働くのです。

仮にTPPが執行されても、米国は貿易赤字が一向に減らず、むしろ増えていくならば米国はいつでも脱退するでしょう。実際にTPPよりはるかに世界中に重視されたパリ協定でも米国はすぐ脱退しました。米国はライバルの中国を牽制したいものの、国力の衰退を招くような米中対立をするほど馬鹿ではありません。戦略の本質は相手を負かすことではなく、自分を強くすることだと知っているからです。

高齢化、少子化と内向き志向で日本の衰退は米国より遥かに進んでいます。衰退は相対的なものであるため、ずっと日本の中にいると気付かないのです。最近、ネットで話題になった文章があります。20代の日本人の若者が人生で初めて訪ねた中国での見聞録です。実に興味深いです。(「日本が中国に完敗した今、26歳の私が全てのオッサンに言いたいこと」
URL:http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53545

この方がタイトルに「日本が中国に完敗」という表現を使っていること自体、日本社会の心理的障害を表しています。中国を勝負の相手だと捉えています。中国人から見ると実に一方的な勝手な話です。日本の十倍の人口と25倍の国土と、日本に文化を伝授した国にライバル心を燃やしてどうするのでしょうか。そんな時間を日本自身の問題解決や国家ビジョン作りに使うべきではないかと思うのです。

生物と同様、個人も企業も国家も究極的な課題は自分がどう生きるかです。隣の人と比較したり、競争したりすることはやむを得ない時はあるものの、長い目でみれば自分に似合い、自分が得意とする独自の戦略を編み出すことが発展と進化につながるのです。

戦略とはどう勝つかではない。どう生きるかです。半年前の「胡坐」で同じことを言って激しい批判も受けましたが、今回も喜んでご批判を受けたいと思います。

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http://www.soubunshu.com/article/455382279.html

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今までの論長論短はこちら↓
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