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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第349号(2018.04.06)

視之不見、聴之不聞

北朝鮮との国境の町、丹東。私の初恋の彼女の故郷です。

夏休み前に喧嘩したため、彼女は怒って一人で家に帰ってしまいました。謝るために彼女を家まで追いかけましたが、そのまま2週間も住ませてもらいました。まだ高層ビルがなかった時代でしたが、彼女とよく鴨緑江の畔に行き、北朝鮮と繋がる鉄橋を眺めていました。

先日、金正恩氏があの鉄橋を超えて丹東駅に着いた時、中国側で専用列車に入って歓迎の挨拶したのは宋涛氏。北朝鮮が発表した動画から分かるようにとても初対面の表情ではないのです。金正恩氏が帰る時も、同じく宋涛氏が丹東駅まで見送りました。これらの情報は北朝鮮が公開した動画から分かりました。中国側の発表では一切、触れていません。

トランプ氏が金正恩氏との会談に応じるニュースはまさに世界を驚かせました。日本では日本経済新聞をはじめとするマスコミたちは「中国はカードを失った。蚊帳の外で焦っている。」と報道していました。中朝関係が冷え切ったと判断する情報がある訳ではないと思いますが、あるとすれば金正恩がなかなか訪中しないことの他、宋涛氏が特使として平壌に共産党大会の結果を報告に行った際、金正恩氏とは面会できなかったとの情報です。

しかし、今回の北朝鮮の映像を見れば、明らかに宋涛氏と金正恩氏は旧交があるのです。会ったのはまさに共産党大会の報告に行った時でしょう。会ったことを発表しなかったことは確かですが、「会談発表がない=会談がなかった」というのは日本のマスコミの得意な憶測でした。

私は26日の夜から27日の昼間にかけて微信(Wechat)を通じて鉄道沿線の厳重警備の映像を目にし始めました。丹東近郊らしい景色に金正恩の父親や祖父が乗っていた専用列車らしい車両が見えました。そしてとうとう北京市内を走る車列を頻繁に目にするようになりました。国家元首でなければ絶対使わない数の白バイと交通規制でした。政治に敏感な中国人ならば誰でもこれは北朝鮮のトップが来たと分かります。金正恩氏の妹さんを含む、元首以外の高官にこんな処遇をするなんて中国ではあり得ないのです。

金正恩氏が極秘に中国訪問。こんな民間ニュースには中国人は慣れています。情報管理が厳しい中国ですから、マスコミ発表は参考程度です。第一、金正恩氏の先代達はよく極秘に中国に来ていました。私の故郷の山東省では孔子廟を参拝に来た金日成氏をたまたま見かけた人も居ました。

日本のマスコミがいつ報道するかと思ったら、なんと金正恩が帰国し、中国が正式に発表した後でした。それまで中国語や英語の各種情報サイトでは映像を含む情報が既に溢れていました。だからこそ「外交上手」の安倍総理が「報道で知った」とはショックでした。外務省も「想定外だった」と言うのですが、逆に何を想定していたのが知りたくなりました。たぶんの「独自な想定」があまりにも強くて現実離れしているから、普通につかめる情報を無視してきたのでしょう。

慌てて姿勢を変え、金正恩氏との首脳会談を企画すると言う安倍首相が国会で情報力と戦略性の欠如を追及されると「日本のリーダシップの結果だ。中国に詳細説明を受けたい。」と言いましたが、中国のWechatにすぐその画像をアップされ嘲笑の的になりました。「安倍氏は日本に来るように圧力をかけないとは、本当に日本の首相ですか。」と。

日本の情報力はなぜこんなにも低いのでしょうか。それが今日のテーマです。

「老子」第十四章に「視之不見、聴之不聞」という有名な言葉があります。知りたい意識がなければ「視ても見えない、聴いても聞こえない」という意味です。たぶん、安倍総理は北朝鮮脅威を煽り「国難」選挙で勝ってよい味を占めたのでしょう。危機を欲しがるあまり、北朝鮮の狙いと韓国の動き、そして米中間の取引についてまったく知ろうとしなかったのだと思います。戦前の大本営もそうでしたが、欲しがる結果と結論に向けてそれを立証する情報だけを集め、それ以外の情報を無視するか、歪んで解釈するかです。

企業も同じです。日頃よく「情報収集能力」と呼びかける経営者が多いのですが、好きな部下としか付き合わない、反対意見を嫌う、思い込みの激しい経営陣には、情報収集力は何の意味もありません。部下の情報力はぜんぶ社長の「ビジョン」と「構想」に合うものに使われるのです。強いほどまずいです。たまに異なる情報が含まれてもしょせんゴミ扱いです。

本当の情報を得るには謙虚さと真剣さが必要です。驕りと私欲は価値のある情報を断ずるのです。

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