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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第355号(2018.07.06)

トランプ氏はなぜ破壊を行うか

TPP合意、パリ協定、ユネスコ、イラン協定、国連人権理事会・・・トランプ氏が大統領になって以来、米国は西側社会が大切にしてきた合意や組織から次々に離脱しています。トランプ氏は当選前から英国のEU脱退を支持し、最近ではフランス大統領にEU脱退を勧めています。そしてG7とWTOを含む既存国際体制のほぼ全てに不満を持っています。

トランプ氏が中国との貿易戦争を起こすのは理解できますが、EUやカナダや日本にも処罰性関税をかけるのは私でさえ不公平だと思いました。米国で生活してみると分かるのですが、米国製で魅力のある製品は本当に少ないのです。日本とドイツの車に高い関税をかければもっと売れるのは米国車ではなく韓国車でしょう。それよりも既に高い生活コストの更なる上昇に消費者が離反するでしょう。

トランプ氏に「狂気、強気と不安定」のイメージを持つ日本人が多いと思いますが、当のトランプ氏は今、当選後の低支持率から脱出し、じりじり支持率を上げてきました。彼の一貫した姿勢と政策が米国民の支持を得ていることはその支持率の上昇によって証明されているのです。

トランプ氏の政策が米国を再び偉大にすることができるかどうか、正直私には分かりません。中国がライバルとして狙われたからと言って彼の失敗を期待するような見込みとコメントは自戒したいと思います。日本人を含む米国以外の国々にとって一番大事なのは米国の社会深層におけるこの変化への対応です。

共和党だけではなく、民主党も移民問題や自由貿易に対して姿勢をどんどんシフトしていることに日本人は気付くべきです。たとえば、最近話題になっているハーバード大学のアジア系アメリカ人への差別問題です。米国国民であってもアジア系というだけの理由で不公平なパーセンテージ制限を受けるのです。これに共和党だけではなく民主党の有力議員も賛成しているのです。

米国に幻想を抱く一部の日本人は「それは中国系や韓国系への制限だろう」と思いたいでしょうが、中国人と韓国人と日本人の顔は彼らには同じに見えるし、そもそも同じ米国国籍なので先祖はどこからきているかの情報は求められていません。顔で「アジア系移民」を断定しているのです。

前々回のメルマガでトランプ氏の本を紹介しましたが、今回はトランプ氏の昔のテレビ出演について紹介します。当時の対日赤字についてトランプ氏がテレビ番組で怒りを語っていました。「・・・米国は日本に機会を与えているが、日本はあらゆるものをダンピングする。これは自由貿易ではない。東京で何かを売りたいならあきらめた方がいい・・・」と激しい口調で語っていましたが、「日本」を「中国」に置き換えればそのまま現在の彼の中国批判になります。よくも悪くもトランプ氏は昔から変わっていないのです。

変わったのは米国民です。大半の米国民がトランプ氏の主張を受け入れるようになったのです。

私はオバマ時代からTPPは成功しないと言ってきました。理由は「中国包囲」との宣伝文句ではなく、米国内の反応を知っているからです。米国人の多くは中国との貿易赤字が米国以外のTPP加盟国に移し替わっても何の意味もないと考えているからです。何回も言いますが、貿易の基本原理は損得です。長い間、「自由貿易」で損してきた米国がそれを拒否するのは時間の問題です。

いつの時代でも「自由貿易」とは儲かる国のセリフなのです。

米国は余裕がなくなってきたことを日本人や中国人よりも米国人自身が一番実感しています。余裕があったから国連、G7、NATO、WTO、IMFなどを好きなように操れたのです。しかし、国際組織を纏めるには援助や市場開放などのコストが必要なのです。国力が相対的に落ちた米国は金融危機以降にその無駄に気付き始めたのです。既存のシステムを果敢に破壊し、その中から新たな覇権を模索する米国の勇気に感服せざるを得ません。

中国語には「不破不立」という言葉があります。既存の社会システムに不満があればまずそれを破壊することです。破壊しない限り、自分たちに有利な新たなシステムを打ち立てることは不可能なのです。

数十年後、トランプ氏はアメリカ帝国を再び強固にした偉大な革命家と言われるか、それともアメリカの衰退をただ加速させただけの人物になるのかは分かりませんが、私達は自分に都合の良いように思い込むミスだけは避けるべきでしょう。

しかし、トランプ氏が既存のシステムを壊した以上、新たなチャンスは皆にあるのです。適応能力のある人にとって「壊されてもよし、壊されなくてもまたよし」です。これが企業家精神なのです。

宋のTwitterはこちら↓
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