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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第360号(2018.09.14)
アリババの創業者が引退するが
9月10日は中国の「教師の日」です。偶然にもこの日はアリババ創業者馬雲氏の誕生日です。先日、54歳の誕生日に、馬雲氏はアリババ広報を通じて引退宣言を発表しました。「満55歳の来年の今日に会社を引退する」と。
しかし、当の馬雲氏は9月10日にロシアで54歳の誕生日を迎えました。ロシアで開催される東方経済フォーラムに出席するためです。このフォーラムに日本の安倍総理も出席しプーチン大統領と会談を行いました。
翌日の11日、プーチン大統領がロシア菓子を食べていた馬雲氏を見つけて聞きました。「馬雲さん、あなたはまだ若いのになぜ引退するのですか?」
馬雲氏は答えました。「大統領、私はもう若くないのです。昨日ロシアで54歳の誕生日を過ごしました。創業から19年間は確かにある程度仕事をしましたが、私には他にも大好きな仕事がたくさんあります。例えば教育事業と公益事業などです。」
「あなたは私より若い。私はもう66歳ですよ。」プーチン大統領は笑いながら拍手しました。
馬雲氏が来年の誕生日にCEOを引退する時、アリババはちょうど20周年を迎えます。たった19年間で杭州師範大学を卒業した英語教師の馬雲氏は時価総額4560億ドル(46兆円)の中国一位、世界七位の会社を作り上げました。
馬雲氏の引退声明では「この決定は10年前から慎重に考えそして準備してきた。私は受けた教育のお陰で教師になった。今日に至って私は本当に幸運だった・・・私にはまだ多くの夢がある。教育に戻って好きなことをすることによって私は興奮と幸福に満ちるだろう。私はまだ若い、他にも試したいことがある。」
この引退声明に合わせてプーチン大統領との会話を吟味すれば馬雲氏は経営がそれほど好きではないことが分かります。時代が彼をカリスマ経営者の座に押し上げたが、彼の内心は幸福ではなかったはずです。天職の教育事業や好きな公益事業など、好きなことをやりたい気持ちは本物でしょう。
スケールはまったく比較になりませんが、私も経営が好きではありませんでした。偶然に始めたビジネスが時代の流れに乗って拡大していきましたが、「いつまでもこんなことをやりたくない」と自分の心が定期的に言っていました。我慢していればそのうち好きになると思っていましたが、時間が経つに連れて好きになるどころか、引退したい気持ちがどんどん強くなっていきました。
私は馬雲氏の引退は中国の企業家たちにとてもよい刺激を与えたと思います。経済は誰か個人のお陰で発展するものではありません。より多くの普通の若者が普通のように起業してこそ社会が豊かになれます。いつまでも経営トップに居座り、精神と感覚が時代に遅れても権力を握りしめる経営者が増えれば、経済は活力を失い、社会全体も後ろ向きになるのです。
また経営を引退してから思ったのですが、教育こそ未来社会への最善の投資です。中国社会の変化をよく観察してみると明らかに教育への投資が効果を発揮してきました。
私が大学生になった1980年には中国の大学入学者は年間30万人未満でしたが、今では、年間700万人を超え、海外への留学者数も年間60万人を超えています。馬雲氏のような経営者もこのような膨大な人材と巨大な市場があってこそ生まれるものです。
私は42歳の時に経営から引退しました。その時には既に最新の技術についていくのが苦しかったです。頑張ればそれなりにできたのでしょうが、好きでもないことに執着するよりも、若い世代にバトンを渡したほうが自分のためにも日本の社会にもよいことです。
若い世代の後ろに立ち、教育事業と公益事業に転換した馬雲氏は、中国の企業家達に良い手本を見せたのみならず、今まで以上に中国と世界に貢献してくれるでしょう。