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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第361号(2018.09.28)

米中貿易戦争の本質

前々回の宋メールは交換留学で米国大学から上海に留学している長女が書いてくれました。その長女が知らなかった母国のいろいろな側面に驚いていますが、その中の一つが電化製品の安さです。日本と中国の過去を知らない彼女にしてみれば、中国製電化製品は「性能がよくて安くて品質が普通」の代名詞です。

今はどうか分かりませんが、私が経営者現役の時、当時のスズキ自動車の経営者から「トヨタの普通自動車の原価は当社の軽自動車よりも低い」と聞きました。理由はトヨタの桁違い販売数です。売値の違いと数を合わせて考えればトヨタ自動車の利益力も理解できます。

中国製品は安かろう悪かろうの時代はありました。今もそのようなメーカーは一部残っているでしょう。しかし、都会に住み、中産階級になった5億人がそのような製品に興味がないことを、中国で生活していれば誰でも分かります。

米国や日本などに輸出している製品は中産階級が選ぶ製品の一部に過ぎません。安いのは中国では膨大な数の量が売れているからであって、単なる人件費が安いからではないのです。ここ10年の人件費は何倍にもなりましたが、製品の値段は上がるどころか、むしろ下がり続けているのです。コスト=人件費の発想は販売数に限界があるときの発想です。

人件費で言えば、インドは中国よりはるかに低いのですが、インドのスマートフォンの約半分は中国メーカーが占めています。特にまだ創業8年の「小米」が既にサムソンのシェアを超えてインドのトップシェアになったのです。インド人には経営力も技術力もあります。人件費も安いと考えればいずれ地元メーカーがトップシェアを取り戻すと思うのですが、今のところ、中国市場での販売数に支えられている中国メーカーに負けているのです。

購買力がない時代の中国は人件費が安くても市場がないため、製品は輸出に依存するしかありませんでした。日本を含む海外メーカーも自国や輸出のために中国で作っていたのです。中国進出の目的は中国に売ることではなく、中国の安い人件費と安いインフラを利用することでした。しかし、中国に5億人の中産階級が誕生した今、状況はまるで逆になりました。

米国から見れば中国の輸出は減っていないのですが、中国にとってみれば米国への輸出が占める販売シェアはどんどん下がっているのです。仮に全部を止めても国内の1%に過ぎないのです。外資企業も中国市場で一定のシェアが取れない限り、中国で生産するメリットは殆どなくなります。

仮に安い人件費を求めて東南アジアに移転しても、中国メーカーも必要に応じて同じことをやっているので現地の華人社会や陸路搬送のメリットを考えると人件費の安さを求める渡り鳥モデルには限界があります。

ここに米中貿易戦争の本質もあります。「モノの製造コストは販売数に反比例する」という原理を考えれば米中の製造業の競争は最初から勝負がついています。中国が国内消費のあまりを米国に輸出している以上、米国はこのコストに勝てません。昨年時点では、金額ベースでも中国の小売り販売規模は既に米国を超えていました。今後、その差が開くばかりでしょう。

残念ながら、米国が主張してきた自由競争、自由貿易を続ける以上、米国の貿易赤字が拡大していく一方です。トランプ氏が「不公平」と連呼したのは結果であり、プロセスではないのです。「結果がすべて」と考えるトランプ氏はやり手経営者として正しいのです。

私は両国ともがこの問題を取り込むべきだと思うのですが、米国は正式に「自由競争、自由貿易」の放棄を宣言しない限り、無意味な喧嘩が続くのでしょう。貿易相手国の内部体制まで自分のやり方を押し付けるのは大国同士には通用しないはずです。

今週、中国は分厚い貿易白書を発表しました。統計数字がたくさん羅列しています。要は米中間のサービス貿易や中間部品などを統計に入れると中国は決して黒字を稼いでいないというのです。まあ、中国人の私から見ても「米国人がこんな難しい統計を見る訳もない上、そもそも双方が見ているものが違う」から、無駄な努力だろうと思いました。

米中の指導者たちが何を言おうとしても、私達中国人はあくまでも少しでも自分の生活を良くしようと勤勉に働き、後世の教育にも力を入れるのです。その結果として1990年に7億5千万もいた極貧人口が2015年には1千万人に減ったのです。我々は自分たちを極貧から救ったのです。

自己救済の結果、中国は再び世界最大の経済規模になろうとしていますが、その過程がもたらす変化を中国と世界の双方がどう受け入れるか。今こそ真剣に見守る必要がありそうです。

P.S.
この原稿を書いた数時間後、トランプ氏の国連総会での演説を聞きました。
案の定、彼はグローバル化を拒絶するよう国連に促しました。グローバル化の否定はつまり世界規模の自由貿易と自由競争の否定なのです。

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