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宋文洲のメールマガジンバックナンバー第363号(2018.10.26)

どうやって「信用」を構築すればいいのか

私は日本で起業しましたが、本音を言えば生まれ育った中国で会社を始めたかった。それは親、兄弟だけではなく、昔から知っている親友がいたからです。大学院卒業後まもなく会社を立ち上げた私にとって、一番辛かったのが信用できる協力者がいないことでした。「信用」は組織管理やチームワークの基本です。我ながら「信用」がない中、よく起業できたなと思います。

経営者時代は、信用できない人材でも使わざるを得なかった。決して私は他人を信じやすい善人ではありません。たとえ信用できない人がいても、そのリスクを減らすシステムを作ったのです。むしろ「信用」に頼らない心構えが、経営者としての私を成長させてくれたといえるでしょう。

家族や信用できる友人と会社を始めても、経営規模を拡大させれば、見知らぬ人間と仕事をする機会は必ず出てきます。その中には裏切る人も出てくるでしょう。信用していた部下が、豹変して別な顔を見せることもよくあります。そうしたケースを見るにつけ、私も人間不信に陥ったことがありました。

ただ「信用」はまさに組織の核です。それを作り出すことこそ経営者の最も重要な役割です。

「信用する」と「信用される」。どちらが先かといえば、間違いなく「信用する」が先です。他人を信用できない人はどうすればいいのか。コツはあります。それは他人を信用しているフリをすることです。その上で、たとえ裏切られても命取りにならないよう、リスクコントロールをしておけばいいのです。

「三国志」にこんな記述があります。ぎりぎりの戦いに勝った曹操が、敵陣から大量の書類を押収し、その中から自らの部下が敵に送った手紙を見付けます。しかし曹操は封を開けることなく、全て焼却するよう命じたのです。

一見、信用できない人間を見付けるいい機会だと思ってしまいますが、曹操にしてみれば、戦の結果が分からない時に、負けた時の準備をする部下が出てくるのはやむを得ないのです。リーダーに何より求められるのはとにかく勝つこと。勝利を重ねることでリーダーとしての信用は自然に増し、部下の動揺も減っていくのです。

経営者を長くやっていれば、他人を信用するかしないかは大した問題ではなくなります。「あの人は信用できる」という言い方が幼稚に聞こえるようになる。

ビジネスのためこちらは信用を守りますが、相手に信用を守ってもらえる保証はどこにもない。そうした心構えが自然と出来上がるのです。契約内容などでリスクを減らそうとしますが、それでもカバーできないケースはたくさんあります。とにかく用心するしかない。しかもこちらが用心していること自体、相手に知られないよう配慮する必要があります。

中国ではリーダーの心得として「用人不疑、疑人不用」という諺があります。「使う人を疑わず、疑う人を使わず」という意味ですが、その本質は、信用できない人を信用するふりをして使いこなし、どうしても使えない人材を外せということです。こうした過程で起きた心労は経営者としての成長の肥やしにするしかありません。
頭で分かっていても、なかなか真似できることではない。ただ、この「信用」をめぐる考え方はサラリーマンの皆さんも肝に銘じてもらいたいと思います。
(週刊文春2018年3月29日春の特大号より)

P.S.
ここ数週間米国各地を回っていてなかなか落ち着いてものを考える暇がないので、以前「週刊文春」に掲載された連載を使わせていただきました。

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